MIXを始めようと思ったとき、最初にぶつかる壁がプラグイン選びだと思います。有名どころはひとつ2〜3万円が当たり前で、EQとコンプとリバーブとリミッターを揃えるだけで10万円コースになってしまう。かといって無料や激安のものは、いざ本気でMIXしようとすると細部で物足りなくなる。この「プロ仕様は高い、安いものは物足りない」の間を埋めてくれるメーカーが最近登場して、日本のエンジニアの間でも話題になっています。ORRA AUDIO(オーラ オーディオ)です。
今日はこのORRA AUDIOがどういうメーカーで、どのプラグインが何をするものなのか、そして歌ってみたMIXを始める人にとってなぜ相性がいいのかを、ひととおり紹介していきます。
ORRA AUDIOってどんなメーカー?
ORRA AUDIOは、AaronとDavidという二人のプロデューサー兼エンジニアが立ち上げた、比較的新しいプラグインメーカーです。二人合わせて30年以上スタジオで作業してきた人たちが「自分たちが欲しかった道具を作る」というコンセプトで開発しています。
特徴的なのは価格設定で、主力製品がどれも49ドルで揃うこと。日本円だと今のレートで7,000円前後です。それでいて中身は、リニアフェイズのマルチバンドやFFTを使ったスペクトラル処理みたいな、本来なら高級プラグインにしか載っていないような機能まで積んでいます。安かろう悪かろうではなく、むしろ機能過多なくらいで49ドル、というのがこのメーカーのおかしなところです。
実際、Danny Elfmanの現場などに関わるEmmy賞受賞エンジニアのShachar Boussani氏が「他のどのメーカーにもない機能を静かに次々出してくる」と絶賛していたり、SNS上で日本のプロエンジニアたちからの評価も高く、動画レビューも増えてきています。新興メーカーながら、玄人筋から支持されている点は信頼材料になると思います。
発売中のプラグイン全ラインナップ
現在リリースされているのは全部で7つ(+付属のサイドチェイン用コンパニオン)です。まず一覧で整理します。
| プラグイン名 | 種類 | 価格 |
|---|---|---|
| Orra EQ | EQ+サチュレーション | 49ドル |
| Orra Press | コンプレッサー | 49ドル |
| Orra Space | リバーブ+テープディレイ | 49ドル |
| Orra Cream Limiter | マスタリングリミッター | 49ドル |
| Orra Ducker | 周波数別サイドチェインダッカー | 5ドル |
| Orra Tone Zone | トーンカーブ補正 | 無料 |
| Orra Pump | テンポ同期モジュレーション | 無料 |
ここからひとつずつ、何をするものなのかを見ていきます。
Orra EQ(49ドル)

名前はEQですが、実態はEQとサチュレーションとダイナミクスをひとつにまとめた欲張りなプラグインです。16バンドのパラメトリックEQに、各バンドごとにサチュレーション(真空管、テープ、各種アルゴリズムで計17種類)やダイナミックEQを仕込めます。
歌ってみたMIXで言えば、ボーカルの耳に痛い帯域だけを削りつつ、低域には温かみを足す、といった処理をひとつの窓で完結できるということです。サチュレーションはカタカナのまま覚えておいてください。倍音を足して音に艶や存在感を出す処理のことで、EQだけでは出せない前に出る感じを作れます。0.1〜40という広いQレンジも持っているので、普通にクリーンなEQとしても優秀です。
Orra Press(49ドル)

主力コンプレッサーで、これがかなり強力です。VCA系のClassic、オプト系のOptical、FET系、マルチバンド、スペクトラル、リミッターという6種類のエンジンを、6つのスロットに好きな順番で並べられます。
コンプの二段掛け(シリアルコンプ)はプロの現場でも定番の手法です。速いFETでピークを掴んでから、遅いOpticalでなだらかにレベルを整える、といった組み合わせを、本来なら複数のプラグインを立ち上げてやるところを、Orra Press一台で完結できます。しかもスロットの順番を矢印で入れ替えても設定が消えないので、順番の違いを耳で比べながら追い込めます。歌ってみたのボーカルなら、まず1台目で軽くピークを抑えて、2台目でレベルを均す、という流れをこの中だけで組めるのは初心者にとってもわかりやすいと思います。
Orra Space(49ドル)

5種類のリバーブ(Room、Chamber、Plate、Hall、Spring)とテープディレイを積んだ空間系プラグインです。リバーブとディレイを直列ではなく並列で走らせて、BLENDノブひとつで混ぜ具合を決められるのが面白いところです。
歌ってみたで扱いにくいのが、リバーブをかけるとボーカルが引っ込んで聞こえる問題ですが、Orra SpaceにはDUCK機能があって、ボーカルが鳴っている間はリバーブを自動で少し下げ、歌の隙間で膨らませることができます。これで前に出したまま空間を足せます。リバーブは初心者が一番迷うエフェクトなので、この気の利いた機能はありがたいと思います。
Orra Cream Limiter(49ドル)

マスタリング用のトゥルーピークリミッターです。リミッターは音量を最終的に持ち上げて音圧を稼ぐための道具で、「制限」などと訳さずリミッターと覚えてください。トゥルーピーク対応なので、配信サービスに上げたときに音が歪む事故を防げます。ワンクリックのマスタリング機能や、各配信ターゲットのラウドネスに自動で合わせる機能もあるので、マスタリングに不慣れな人でも出発点を作りやすいです。
Orra Ducker(5ドル)

たった5ドルの周波数別ダッカーです。ぶつかっている帯域だけを狙ってサイドチェインで下げてくれるので、ボーカルと伴奏が同じ帯域で干渉して濁るときに役立ちます。ワンコインなので気軽に足せます。
Orra Tone Zone(無料)/ Orra Pump(無料)


Tone Zoneはミックス全体の周波数バランス(トーンカーブ)を、プロの基準や参考曲と見比べながら整えるプラグインです。自分のMIXが低域過多なのか高域が刺さっているのか、目で確認できるので初心者の勉強にもなります。海外のプラグインメディアでも「今年見た中でベストの無料マスターバス用ツール」と紹介されていました。Pumpは波形を描いてテンポに同期させるモジュレーション系で、こちらは楽曲制作寄りの飛び道具です。どちらも無料なので、まず入れてみて損はないです。
MIX師が最初に揃える一式として
MIXで最低限必要なのは、EQ、コンプ、リバーブ、リミッターの4つです。この4つさえあればひととおりのMIXは成立します。ORRA AUDIOはこの4つが全部49ドルで揃うわけで、合計しても200ドル弱、日本円で3万円ほどです。有名メーカーでこれを揃えたら軽く10万円を超えることを考えると、コスパは相当なものだと思います。
MIXを始めたばかりで何を買えばいいかわからない、という人には、まず無料のTone Zoneで感覚を掴んで、そこからEQ・Press・Space・Cream Limiterを揃えていく流れをおすすめします。全部同じメーカーで統一されているので操作感に一貫性があり、あちこちのメーカーの癖を覚え直す手間もありません。
購入のタイミングですが、Orra Spaceのように導入時のセール価格(29ドル)が設定されている製品もありますし、新興メーカーは節目でセールを打つことが多いので、急ぎでなければ公式サイトやSNSのアナウンスを見ながらセールを狙うと、さらに安く揃えられます。多くの製品に14日間の無料デモが用意されているので、買う前に一度自分のMIXで試してみてください。
最後に
数字や機能の多さを並べましたが、結局のところプラグインは値段や機能表で決まるものではなく、自分の曲に合うかどうかがすべてです。ORRA AUDIOは間違いなくコスパの高い選択肢ですが、まずはデモや無料のTone Zoneで実際に音を通して、自分の耳で判断してみるのがいいと思います。安く良い道具が揃う時代になったぶん、あとはそれを使いこなす耳を育てていくだけです。