DTMや、歌ってみたのMIXを始めると、わりと早い段階で「コンプレッサー」という壁に直面します。EQと並んで必ず使うことになる定番のエフェクトなんですが、これがなかなか難しい...つまみの数が多くて、可と思えばつまみが2つしかないものあったりして。何をどういじると何が変わるのか直感的に分かりづらいんですよね。

僕も高校生でMIXを始めたころ、コンプだけはずっとよく分からないまま、解説記事の数字をそのまま打ち込んで「たぶんこれで合ってるはず」とごまかしていました。
今回は当時の自分に教えるつもりで、コンプとは何をするものなのか、というところから順番に話していきます。全3回のガイドの第1回です。

コンプレッサーは「大きすぎる音を小さくする」装置

最初に大事なことを言ってしまうと、コンプレッサーの本来の役割は「設定した音量より大きい音を、自動で小さくする」、これだけです。名前のとおり、音を圧縮(コンプレッション)する装置ですね。

ボーカルって、実はものすごく音量がバラバラです。
サビで張り上げたところはとても大きく、Aメロでささやくように歌ったところはとても小さい。この最大と最小の差を「ダイナミックレンジ」と呼びます。「音量差」ですね。「抑揚」と言ってもいいかもしれません。
歌は楽器の中でもこの差が大きい部類で、何もしないまま曲に混ぜると、大きいところはうるさく、小さいところは伴奏に埋もれて聞こえなくなってしまうんですね。

そこでコンプの出番です。大きいところだけを狙って音量を抑えてくれるので、結果として最大と最小の差が縮まります。山が低くなって、全体がならされた状態になるイメージですね。差が縮まれば、フェーダーで全体を持ち上げても大きいところがうるさくなりにくい。だから「ボーカルが安定して前に出てくる」わけです。

例えば
音量の上限は「10」とします
オケの音量が「7」だとしましょう
録音されたボーカルの最大値が「9」、最小が「6」だとします。あくまで仮の数字ですよ
声が「9」のところは聞こえるけど、「6」のところはオケに埋もれて聞こえませんね。
そこでフェーダーを上げて音量を上げると?
最小をオケより大きい「8」に上げたとします。最大値も2上がるわけですから上限を超える「11」になってしまいます。これではクリップしてしまいますね。
そこでコンプを使い大きな音だけを下げます。ボーカルの「9」の箇所を「7」まで下げます。
これでさっきのようにフェーダーを2上げてみましょう。
ボーカルが「9」と「8」になり、オケの「7」に埋もれることなく聞きやすくなりますね。

このことをしっかりと認識してほしいんです。
コンプは魔法のエフェクトではなくて、やっていることは「大きい音を小さくする」という地味な作業なんだと。

「パンチが出る」「迫力が出る」のはなぜか

とはいえ、ネットで調べると「コンプでパンチを出す」「音圧を稼ぐ」「迫力を足す」といった説明をよく見かけます。これは間違いではなくて、さっきの「大きい音を小さくする」という働きから派生して生まれる効果なんです。

順を追って考えてみます。大きいところを抑えると、全体の音量差が縮まりますよね。すると、その分だけ全体のボリュームを底上げできる余地が生まれます。底上げすると、今まで小さくて埋もれていた音、たとえば息づかいや子音のニュアンス、伸びの後半までしっかり聞こえるようになる。小さい音が持ち上がって、密度が増したように感じられる。これが「迫力が出た」「音が太くなった」と表現される正体です。

「パンチ」のほうも仕組みは似ています。コンプには反応の速さを決めるつまみがあって、これを少し遅めにすると、音の出だし(アタック)の一瞬だけはコンプが間に合わず出だしは圧縮が浅く、その直後から目標の圧縮量まで深まっていく。すると出だしだけが相対的に際立って、子音や打音のキレが強調されます。これが「パンチ」です。

だから「コンプ=パンチを出すもの」と丸暗記してしまうと、なぜそうなるのかが分からず応用が利かなくなります。あくまで土台は「大きい音を抑える」で、その使い方しだいで迫力にもパンチにもつながる、という順番で覚えておいてください。

基本のパラメーターをざっくり把握する

コンプのつまみは機種によって増減しますが、骨格になるのは次の5つです。まずは役割と、出発点になる目安をまとめておきます。あくまで「ここから始めて耳で詰める」ための数字なので、正解の値ではない点に注意してください。

パラメーター 役割 出発点の目安
スレッショルド どの音量から圧縮を始めるかの境界線 GRが3〜6dB動くあたり
レシオ 境界を超えた音をどれだけ強く抑えるか 2:1〜4:1
アタック スレッショルドを超えてから、指定の圧縮量に達するまでの速さ 中くらい(数〜数十ms)
リリース 音が収まってから圧縮をやめるまでの速さ 中くらい〜やや速め
メイクアップゲイン 圧縮で下がった音量を戻す補正 下がった分と同程度

スレッショルドとレシオ

この2つはセットで考えると分かりやすいです。スレッショルドは「ここを超えた音だけ圧縮しますよ」という境界線。レシオはその境界を超えた音を「どれくらいの割合で抑えるか」を決めます。

たとえばレシオが4:1なら、境界を4dB超えた音は1dB分しか出力されない、という具合に圧縮されます。数字が大きいほど強く抑え込む設定です。

初心者がつまずきやすいのがスレッショルドの決め方なんですが、数値そのものを覚える必要はありません。ゲインリダクション(GR)メーターを見ながら決めるのがおすすめです。GRメーターは「今どれだけ音量を下げているか」を表示してくれるメーターで、これがサビの大きいところで3〜6dBくらい振れていれば、ボーカルとしては自然にまとまる範囲です。スレッショルドを下げる(境界を低くする)ほどGRは大きく振れます。まずはこのメーターを頼りに調整してみてください。

アタックとリリース

ここが一番分かりにくいところだと思います。まずアタックですが、これは「圧縮が始まるまでの待ち時間」ではありません。正確には、スレッショルドを超えた瞬間から、レシオで決めた圧縮量に達するまでにかかる時間です。圧縮そのものは境界を超えた時点から始まっていて、アタックが決めているのは「目標の圧縮量まで、どれくらいの速さで到達するか」だと考えてください。

アタックが遅いと、目標の圧縮量に達するまで時間がかかります。その結果、音の出だしの一瞬はまだ十分に圧縮されておらず素通りに近い状態になるので、出だしのキレが残ってパンチが出ます。逆に速くすると出だしから一気に目標の圧縮量まで到達するので、より平らで落ち着いた質感になります。

リリースは「スレッショルドを下回ってから、圧縮をやめて元に戻るまでの時間」です。速いと元に戻るのが早く躍動感が出る反面、戻る動きが音に乗って不自然になることもある。遅いと滑らかですが、抑え込んだ感じが長く続きます。

最初のうちは、アタック・リリースともに中間あたりから始めて、ボーカルのキレが足りないと感じたらアタックを少し遅く、圧縮が不自然に張りつくと感じたらリリースを調整する、という順で触ると掴みやすいです。

機種によっては「キャラクター付け」が目的になる

ここまでは「音量をならす」という実用的な話でしたが、コンプにはもう一つ大きな役割があります。それが音色のキャラクター付けです。

特に実機のアナログコンプをモデルにしたプラグインは、通すだけで独特の太さや艶、わずかな歪みが乗ります。エンジニアがあえて特定の機種を選ぶのは、音量調整のためというより「この機種を通したときの質感が欲しいから」という理由であることも多いんです。極端な話、ほとんど圧縮していなくても、音色のために通す、ということすらあります。

つまりコンプには、音量をコントロールする「道具」としての顔と、音に色をつける「楽器」のような顔の両方がある。このキャラクターの違いこそ、機種選びがおもしろくなるポイントです。

ただ、この話を深掘りすると長くなるので、次回にゆずります。第2回ではコンプの歴史と、FET・OPT・VCA・TUBEといった種類ごとの違いを、代表的な機種やプラグインと一緒に紹介していきます。種類によって得意な使い方やキャラクターがはっきり分かれているので、ここが分かると「どんな場面でどのコンプを選ぶか」が一気に見えてきます。

数字は出発点、最後は耳で決める

今回いくつか目安の数値を出しましたが、これらはあくまでスタート地点です。声質も曲も録音状態も人それぞれなので、同じ設定が誰にでも当てはまることはありません。GRが6dB振れていても自然な人もいれば、3dBで十分な人もいます。

僕がいつも意識しているのは、コンプをかけた状態とバイパスした状態をこまめに切り替えて聞き比べることです。かけたほうが「ボーカルが安定して聞き取りやすくなった」と感じられればOK。逆に「平べったくなった」「のっぺりした」と感じたら、それはかけすぎのサインです。

つまみの数字を合わせにいくのではなく、音がどう変わったかを耳で確かめる。これさえ習慣にしておけば、コンプは少しずつ怖くなくなっていきます。次回もぜひ読んでみてください。