第1回ではコンプの本来の役割が「大きすぎる音を小さくする」ことで、そこからパンチや迫力が生まれること、そして機種によっては音色のキャラクター付けが目的になる、という話をしました。今回はその「キャラクター」の正体に踏み込みます。

コンプには動作方式によっていくつかの種類があって、それぞれ音の質感も得意な場面もはっきり違います。ただ、いきなり方式の名前を並べても頭に入りにくいので、まずはコンプがどういう経緯で生まれて発展してきたのか、歴史をざっと追ってみます。流れが分かると、種類ごとの個性も腑に落ちやすくなるはずです。

コンプはもともと「音を届けるため」の道具だった

コンプレッサーの始まりは、音楽制作のためではありませんでした。きっかけはラジオ放送やレコード、電話といった、信号を遠くまで安定して届ける必要のある分野です。

放送やレコードには「ここまでの音量しか扱えない」という上限があります。大きすぎる音が来ると音が割れたり、針が飛んだりしてしまう。かといって全体を小さく録れば、今度は小さい音がノイズに埋もれる。この上限を超えないように、大きい音だけを自動で抑え込む装置として生まれたのがコンプレッサーでした。つまり最初は「音を破綻させずに届けるための、いわば保護装置」だったわけです。

それが録音技術や再生技術の発展とともに、音質を整えたり、積極的に音作りをしたりする道具として使われるようになっていきます。第1回で話した「パンチ」や「キャラクター付け」のような使い方は、この発展の中で後から見出されたものなんですね。だから今のコンプには、保護装置だったころの名残と、音作りの道具としての顔が同居しています。

動作方式で5種類に分けられる

コンプが「大きい音を抑える」と言っても、その音量を下げる仕組み自体は何種類かあります。この仕組みの違いが方式の違いで、方式ごとに反応の速さや音の色づきが変わってきます。代表的なのは次の5つです。

方式 反応の速さ 音の質感 代表機種
FET 非常に速い 太く色づきがある 1176
OPT(光学式) ゆっくり滑らか 柔らかく自然 LA-2A
VCA 速くて正確 クリーンで素直 SSL Bus Comp、dbx 160
TUBE(真空管) ゆったり 重厚で艶やか Fairchild 670
デジタル 自在に設定可能 透明〜何でも DAW標準コンプなど

一つずつ、どんな性格なのか見ていきます。最初から全部を覚える必要はありません。歌ってみたのMIXでまず触れることになるのはFETとOPTあたりなので、その2つを中心に押さえておけば十分です。

FET(代表:1176)

FETは半導体を使って音量を制御する方式で、最大の特徴は反応がとても速いこと。音の細かい動きに素早く食いつくので、出だしのキレを出したり、子音をくっきりさせたりするのが得意です。

代表機種は「1176」。1968年に登場して以来、半世紀以上使われ続けている超定番のコンプです。通すだけで音に太さと色気が乗るので、ボーカルに張りや前へ出る感じを足したいときによく選ばれます。歌ってみたでも出番が多い方式ですね。

ちなみに1176には「アタックやリリースつまみの数値が他の機種と逆」という独特のクセがあります。
数値を大きく(右に回して)していくと速い設定になります。「アタックタイム1:遅い。アタックタイム7:速い」
また有名なレシオ全ボタン同時押し(オールボタンモード、通称ブリティッシュモード)という裏技的な使い方があったりと、機種固有の話が色々あるんですが、それは第3回で実際の使い方として詳しく扱います。

OPT(光学式、代表:LA-2A)

OPT(オプト)は、光を使って音量を制御する方式です。中で光源が音量に応じて明るくなり、その光を受けるセンサーの反応で圧縮量が決まる、という仕組み。光とセンサーのやり取りには物理的な反応の遅れがあるので、動きがゆっくりで滑らかになります。

代表機種は「LA-2A」。FETの1176がキレと速さなら、こちらは柔らかさと自然さが持ち味です。じわっと音量をならしてくれるので、ボーカルにかけても圧縮しているのが分かりにくく、自然にまとまります。なお、ハードウェアのオプトコンプはレシオが固定(おおむね3:1前後)になっているものが多く、つまみが少なくて扱いやすいのも初心者向きなポイントです。

第3回で紹介する「1176とLA-2Aを直列でつなぐ」という定番テクニックは、このFETの速さとOPTの滑らかさを組み合わせることが狙いです。性格の違う2台だからこそ役割分担ができる、というわけですね。

VCA(代表:SSL Bus Comp、dbx 160)

VCAは専用のICで音量を制御する方式で、速くて正確、そしてクリーンなのが特徴です。FETやOPTのような濃い色づけは少なく、設定どおりに素直に動いてくれます。アタックやリリースを自由に細かく設定できる機種が多いのも強みです。

ミックス全体をまとめるバスコンプとして有名な「SSL Bus Compressor」や、硬質でハイファイ、パンチ感のある「dbx 160」が代表格。ボーカル単体というより、複数のトラックをまとめてグッと一体感を出したいときに活躍する方式です。

TUBE(真空管、代表:Fairchild 670)

真空管を使う方式で、Vari-Mu(バリミュー)とも呼ばれます。重厚で艶やかな質感が持ち味で、深くかけても破綻しにくく、独特のまとまりと太さが出ます。

代表機種は「Fairchild 670」「Manley Vari-Mu」。ビートルズの作品でも使われたことで知られる伝説的な機種です。入力レベルに応じて圧縮の強さが自然に変化する性質があって、軽くかければ穏やか、強い音には深くかかる、という有機的な動きをします。実機は今や非常に高価ですが、後述するプラグインなら手の届く範囲で味わえます。

デジタル(DAW標準コンプなど)

最後はソフトウェアで処理するデジタル方式。これは特定の質感というより、設定の自由度と素直さが魅力です。アタックやリリースを正確に決められて、色づけのない透明な圧縮ができるので、まずは音量を整える土台として使うのに向いています。
FabFilterのPro-C3や、iZotope Ozone12のコンプレッサーなどが特に人気です。

お使いのDAWに最初から入っている標準コンプも、ほとんどがこのタイプです。実は第1回で説明した基本パラメーターを学ぶには、クセのない標準コンプが一番分かりやすい。アナログ系の名機に手を出す前に、まずは手元の標準コンプで挙動を体に入れておくのがおすすめです。

プラグインで揃えるなら、まずは定番をセールで

ここまで挙げた1176、LA-2A、Fairchild 670といった名機は、いずれもプラグインとして各社から再現版が出ています。実機を買うのは現実的ではないので、僕らはプラグインで音を借りる、というのが今の標準的なやり方です。

中でもUAD(Universal Audio)の製品は、実機をモデルにした再現の評価が高く、定番として広く使われています。1176やLA-2A、dbx 160、Fairchild 670といったこのガイドで挙げた機種がひととおり揃っているので、最初の一歩として候補に入れておくといいと思います。

一つだけ実用的なアドバイスを。こうしたプラグインは通常価格だとそれなりに高いので、買うならセールを待つのが鉄則です。UAD製品は年に何度か大きなセールがあって、タイミング次第で半額近くになることも珍しくありません。欲しいものをリストにしておいて、セールが来たらまとめて買う。これだけで出費はかなり変わります。急いで定価で揃える必要はまったくないので、焦らず待ってみてください。

種類は「キャラの違い」、優劣ではない

方式ごとに性格を見てきましたが、どれかが優れていてどれかが劣る、という話ではありません。速くて色づくFET、滑らかなOPT、クリーンなVCA、重厚なTUBE、自由なデジタル。それぞれに似合う場面があるだけです。

最初のうちは、全部を使い分けようとしなくて大丈夫です。標準コンプで基本を掴んで、ボーカルにキレや太さが欲しくなったら1176系、自然にならしたくなったらLA-2A系、と必要に応じて引き出しを増やしていけばいい。種類の知識は「どんなときにどれを選ぶか」の地図になるので、頭の片隅に置いておくくらいでちょうどいいです。

次回はいよいよ実践編です。この第2回で性格の違いを確認した1176とLA-2Aを直列でつなぐシリアルコンプという手法や、ボーカルとインストオケを馴染ませる使い方、なぜそうするのかという理由と具体的な手順をセットで紹介します。プロの現場でも定番の組み合わせなので、ここまで読んでくれた方ならきっと「なるほど」と腑に落ちるはずです。