歌ってみたのMIXをやっていると、必ずどこかでコンプレッサーと向き合うことになります。エフェクトの中でも特に効果がわかりにくく、何をしているのか掴みづらいと感じる人が多いのではないでしょうか。今回は、ボーカルにコンプをかける意図から、初心者がつまずきやすいパラメーターの考え方、そして僕が現場でも使っている二段掛けの手法まで、順を追って話していきます。

なぜボーカルにコンプをかけるのか

歌というのは、サビで張り上げる部分とAメロでささやくように歌う部分とで、音量の差がかなり大きく出ます。録ったままの状態だと、大きいところに合わせるとAメロが聞こえなくなり、小さいところに合わせるとサビが割れてしまう。この音量差をならして、どの部分も安定して聞こえるようにするのがコンプの一番の役割です。一定以上の音量が入ってきたら、その分だけ音を押さえ込む。結果として、ボーカル全体がオケの中で埋もれず、前に出てくるようになります。

もうひとつ覚えておきたいのが、コンプは音量をならすだけの道具ではないということです。機種ごとに固有の質感があって、通すだけで音の太さや存在感が変わります。だからこそ、どのコンプを選ぶかが音作りそのものに関わってきます。

初心者がつまずくパラメーターの考え方

コンプには似たようなツマミがいくつも並んでいて、最初はどれを動かせばいいのか迷うと思います。代表的なものを整理しておきます。

パラメーター 役割 初心者の目安
スレッショルド どの音量から圧縮を始めるかの境界線 ゲインリダクションが3〜6dB動くあたりまで下げる
レシオ 境界を超えた音をどれだけ押さえるかの比率 ボーカルは3対1〜4対1から始める
アタックタイム 音が入ってから圧縮が始まるまでの速さ 中速の10〜30msあたりが扱いやすい
リリースタイム 圧縮をやめて元に戻るまでの速さ 50〜150msを基準に歌の動きへ合わせる
メイクアップゲイン 圧縮で下がった分の音量を補う 圧縮した量と同じくらい持ち上げる

それぞれ少し補足します。

スレッショルドは「ここから上を押さえます」という線引きです。下げるほど圧縮が深くかかります。数値そのものを覚える必要はなく、メーターのゲインリダクションを見ながら、どのくらい押さえているかで判断するのがコツです。

レシオは押さえる強さの比率です。4対1なら、線を4dB超えた音が1dBぶんしか出てこない、という意味になります。ボーカルでいきなり10対1のような強い設定にすると不自然に潰れるので、まずは控えめから始めてください。

アタックタイムは特につまずきやすいところです。速くしすぎると子音の出だしまで押さえてしまい、歌がもごもごして聞こえます。逆に遅くしすぎるとピークを捕まえ損ねます。最初は中速にしておいて、子音のはっきり感を聞きながら微調整するのがおすすめです。

リリースタイムは戻る速さです。速すぎると音がパタパタと不自然に動き、遅すぎると圧縮しっぱなしで抑揚が死にます。歌のテンポに合わせて、自然に呼吸しているように聞こえる位置を探してください。

プロも使う二段掛けという考え方

ここからが本題です。プロの現場でもよく見られるのが、二段掛け、いわゆるシリアルコンプという手法です。性格の違うコンプを直列につないで使います。一台で深くかけようとすると、どうしても不自然さが出たり音が潰れすぎたりしますが、二台に役割を分けて少しずつかけることで、自然なまま深いコンプ感を得られます。

定番の組み合わせが1176とLA2Aです。この二台について説明しておきます。

  • 1176は反応がとても速いコンプです。アタックが鋭く、急に飛び出す子音やピークを的確に押さえてくれます。通すだけでボーカルが少し前に出てくるような張りが出て、抑揚の激しい曲や勢いのある曲と相性がいいです。
  • LA2Aは対照的にゆったり動くコンプです。反応が穏やかで、音量の変化に優しく追従します。全体をふわっとまとめてくれて、独特の艶やかさが乗ります。バラードやしっとりした曲で力を発揮します。

この二台をつなぐ順番ですが、僕は1176を先、LA2Aを後にしています。手順をまとめるとこうなります。

  1. まず1176で、速く飛び出すピークだけを軽く押さえる。レシオは4対1あたり、ゲインリダクションは深くても3〜4dB程度に留める。ここで欲張って潰しすぎないのが大事です。
  2. 次にLA2Aを通して、全体の音量感をゆっくりまとめる。こちらもゲインリダクションは3dB前後を目安にする。

1176で速いピークを処理してあるぶん、LA2Aは穏やかな部分の仕事に集中できます。二台合わせても全体で6〜7dBほどの自然なコンプになります。一台でこの深さをかけると不自然になりがちですが、役割を分けると驚くほど馴染みます。

どのプラグインを使うか

使うプラグインですが、僕はUADのものをおすすめしています。実機をモデリングした音の再現度が高く、1176もLA2Aも本物の質感にかなり近いものが手に入ります。

ただ通常価格はそれなりにするので、購入を考えているなら年に何度かあるセールを狙うのがいいです。セール時はかなり値引きされることが多く、半額近くになることも珍しくありません。タイミングを待てば、ぐっと手の届く価格で揃えられます。

最後に

コンプは数値どおりにかければ正解、というものではありません。今回紹介した数値もあくまで出発点で、曲や歌い手の声質によって最適な設定は変わります。まずは耳で、かける前とかけた後を聞き比べてみてください。ボーカルが自然に前に出てきているか、不自然に潰れていないか。そこを確かめながら少しずつ調整していけば、自分なりの設定がだんだん見えてくるはずです。