概要

Altiverb 8は、Audio Easeが開発するコンボリューション・リバーブである。実在する空間やリバーブ機器のインパルスレスポンス(IR)を収録し、入力音へその場所・機材の音響特性を与える。コンサートホール、教会、スコアリングステージ、スタジオ、車内、地下施設、プレート/スプリング、クラシックなデジタルリバーブまで、一つの環境から幅広いIRを呼び出せる。

Altiverbは2000年代初頭から同方式の代表格として使われてきた。第8世代では、Apple Siliconネイティブ対応、VST3、リサイズ可能なGUI、読み込みの高速化、クリックを抑えたIR切り替え、Dolby Atmos対応など、現代の制作環境に合わせた更新が行われている。当初はmacOS向けだったが、2025年の8.2.3以降はWindows 10/11にも対応した。

アルゴリズミック・リバーブが数式で仮想空間を作るのに対し、Altiverb 8の中心にあるのは現実の反射・残響・周波数特性である。楽器を自然なホールへ置く音楽制作だけでなく、台詞や効果音を映像内の室内や乗り物へなじませるポストプロダクションでも強い。

IRライブラリとブラウザー

Audio Easeが長年収録してきた数百の空間が付属し、新しいIRも継続的に追加される。ブラウザーでは写真、名称、カテゴリー、残響時間(RT60)から検索でき、選択中のIRに近い部屋を、空間の種類、波形、RTから探すことも可能である。お気に入り登録に対応し、Altiverb 8.1以降は新しいIRセットをブラウザー内から取得できる。

コンボリューション・リバーブはIRを選んだ時点で音の大部分が決まる。最初からDecayやEQを大きく動かすより、素材に合う空間、マイク距離、収録ポジションを探し、その後に補正する方が自然さを保ちやすい。

RegularとXLの違い

基本コントロールとIRライブラリは共通で、主な違いはチャンネル数と対応サンプルレートである。

項目 Regular XL
入出力 モノ/ステレオ モノから最大9.1.6
最大サンプルレート 96kHz 384kHz
Dolby Atmos/イマーシブ 非対応 最大9.1.6に対応
Cloud Size マルチチャンネル入力で使用
出力チャンネル別ミキサー レベルとディレイを個別調整
IR/基本パラメーター XLと共通 Regularと共通

ステレオ中心の音楽制作ではRegularで主要機能を利用できる。映画、放送、ゲーム、Atmos、サラウンド制作ではXLが必要になる。Regularの制限内で作られたセッションは両エディションで開ける。

パラメーター解説

パラメーター/機能 役割
Decay IRへ自然な指数減衰を加え、空間のキャラクターを保ちながら残響時間を短くする
Brightness IRに追従するアルゴリズミック・リバーブを重ね、実空間だけでは得にくい高域を加える
Damping 低・中・高の3帯域で残響時間を個別に短縮または延長する
EQ ウェット信号専用の4バンドEQ。低域と高域はBaxandallタイプ
Size モード、共鳴、初期反射の間隔、テールを含む空間全体を拡大/縮小する
Pre-delay 原音から残響開始までの時間。ホストテンポに同期可能
Attack IRの立ち上がりをフェードインし、遠く柔らかな響きにする
Reverse / Modulation / Gate 逆再生、テールの微細な変調、テンポ同期可能なゲート処理
Direct / Early / Tail 直接音、初期反射、後期残響を個別にオン/オフし、レベルや色を調整
Wet / Dry 原音と処理音のバランス。センド使用では通常フルウェット

Brightnessは単なる高域EQではない。IRの長さや減衰へ追従する合成リバーブ成分を加えるため、元のIRに存在しない明るさも作れる。Decayは主にテールを自然に短くするのに対し、Sizeは反射間隔や共鳴を含む空間そのものを変形する。

Stage PositionerとCloud Size

モノ/ステレオ入力では、Stage Positionerで音源を空間内の任意の位置へ配置できる。単純なパンではなく、IR収録時のスピーカーとマイクの関係を基に、直接音、初期反射、距離感、左右差を変化させる。オーケストラ音源を同じホールの異なる位置へ置く用途や、ギター、パーカッションをステージ奥へ下げる用途に向く。

複数トラックを配置する場合は、各トラックのAltiverbでDirectとEarlyを中心に使い、長いTailをオフにする。別のAuxへ共通のTailを担当させると、CPU負荷を抑えながら一つのステージへまとめやすい。

XLで3チャンネル以上を入力する場合は、Positionerの代わりにCloud Sizeを使う。値を小さくすると残響が入力のパン位置周辺へ集まり、音源が移動すればリバーブも追従する。最大9.1.6のイマーシブ環境で、複数の移動音源を一つのインスタンスから処理できる。

定番テクニック・実戦での使い方

オーケストラとアコースティック楽器

同じホールのIRを選び、Stage Positionerで各パートの位置を決める。位置決め用のインスタンスではDirect/Earlyを中心にし、共通AuxでTailを加えると、定位と残響時間を別々に管理できる。

ボーカル

センドAuxでフルウェットにし、短めのスタジオ、チャンバー、プレート系IRから選ぶ。Pre-delayで子音と残響を分離し、Decayで余韻をテンポへ合わせる。暗すぎる場合はEQだけでなくBrightnessを少量加えると、密度を保ちながら抜けを作りやすい。

ドラム、ギター、ポスト制作

スネアにはプレート、短いルーム、ゲート、ギターにはアンプ内蔵スプリングや小規模スタジオが扱いやすい。Mix誌ではアンプ系の短いIRとPositionerを使い、パンチのあるモノラル空間を作る例が紹介されている。映像では部屋の容積、材質、距離、RT60を優先し、Direct/Earlyで近さ、Decayでカットに合う長さを整える。

プロ・ユーザーの評価

Record ProductionのGeorge Shillingは、Apple Silicon対応、Atmos化されたIR、滑らかな操作、改良された検索、旧セッション互換性を第8世代の長所として挙げている。Mix誌のRich Tozzoliは、実弦やオーケストラ音源に他のプラグインでは得にくい空間を作れると評価し、ギターへの短いアンプ系IRの活用も紹介している。

一方、導入コストは高く、コアIRだけで約8GBを使う。膨大な候補から適切な空間を選ぶには経験が必要で、派手な合成リバーブを短時間で作る用途ではアルゴリズミック系の方が速い場合もある。認証はマシンまたはiLok USBに対応するが、iLok Cloudは利用できない。

こんな人におすすめ

実在するホール、教会、スタジオ、リバーブ機器の響きを重視する人に向く。オーケストラ音源を一つのステージへ配置したい作曲家、自然なボーカルや生楽器の空間を作りたいミックスエンジニア、台詞や効果音を映像の場所へ一致させたいポスト制作者にとって、IRライブラリとPositionerは大きな武器になる。

Atmosやサラウンド制作ならXL、ステレオ中心ならRegularが基本となる。テールをゼロから設計したい、ピッチやモジュレーションを深く作り込みたい、CPUとストレージを抑えたい場合は、アルゴリズミック系や軽量なコンボリューション機と使い分けたい。

システム要件(System Requirements)

項目 内容
現行バージョン Altiverb 8.2.7(2025年12月公開、執筆時点)
対応OS(macOS) macOS 10.14 Mojave以降。Apple Silicon/Intel対応
対応OS(Windows) Windows 10/11(64bit)
対応フォーマット AAX Native、Audio Unit(macOS)、VST3。すべて64bit
サンプルレート Regular:最大96kHz、XL:最大384kHz
チャンネル Regular:モノ/ステレオ、XL:モノから最大9.1.6
ストレージ コアIRセットに約8GBの空き容量
認証方式 iLokアカウント必須。コンピューター認証または第2世代以降のiLok USB。iLok Cloud非対応
主な検証済みDAW Ableton Live、Cubase、Digital Performer、Logic Pro、Nuendo、Pro Tools、Reaperなど
注意点 Windows版ではユーザーIR作成用IRToolが未対応。Avid Media ComposerとDaVinci Resolveは公式対応外

対応OS、DAW、既知の問題は更新されるため、導入前にAudio Ease公式のSpecificationsとVersion Historyを確認してほしい。

出典

※価格は変動するため本文では扱っていません。最新の価格、アップグレード条件、Regular/XLの販売情報はAudio Ease公式サイトおよび正規取扱店で確認してください。